くぐつ草

ポレポレ東中野で5月16日から始まった「歌舞伎役者 十三代目 片岡仁左衛門」の「若鮎の巻」を見て、東中野から吉祥寺に出て、くぐつ草でカレーを食べる。

「…片岡仁左衛門」は、全6巻、11時間にわたる壮大な密着ドキュメンタリーで、円盤は未発売。国内の上映は17年ぶりだそうです。お客は私より少し上の方が多く、男性の方が多い印象。歌舞伎って圧倒的に女性ファンが多いのに、こういう記録映像になると急におじさん、おじいさんが多くなるのがいつも不思議に思う。

なんで「若鮎の巻」しか見なかったかというと、それ以外は満席だったからで、来週はちゃんと3日前から予約を取ろうと思いました。「若鮎の巻」は、若鮎会というお弟子さんだけの自主公演に際して、お弟子さんたちに稽古を付けているところを延々と撮っているだけのものなんだけど、なんとも面白かった。当時十三代目は80歳だったそうですが、冒頭、お弟子さんに寄り添われながら登場する場面が、いきなり無条件に格好良かったのが驚きました。おじいさんなのに。なのに、立っているだけで格好いい。恐らくそれは、姿勢がべらぼうにいいからだと思います。立っていても座っていても、腰から上がまっすぐだし、ゆらゆらしてない。今のニザ様もそうで、だからやっぱり、男の格好良さは、背中がまっすぐというところが非常に大事なんだなと改めて思わされました。もうひとつ驚いたのは、普通の会話はもうだいぶおじいさんで稽古を付ける言葉なんかはろれつが回ってないところもあるのだけど、セリフとか義太夫語らせるとしゃっきりクリアに語っていたところ。これはほかの老境に入った役者さんも皆概ねそうだけど、それでもやっぱり改めて見ると驚いてしまう。

稽古を付けていた演目は一条大蔵譚と傾城反魂香(吃又)で、お弟子さんがやっているのを見ながら、都度都度違う所を自分が実際にやって見せながら直していく昔ながらのスタイルなんだけど、これで芸を伝えていくんだから昔の人は根気強いし、すごいなあと思う(耳が育つ時期に普通に生活していた人が、歌舞伎独特の抑揚を身体に叩き込んでいくのはかなり大変だと感じた)。あと、十三代目は口伝で覚えているけど、教わる方は台本で覚えているから、ところどころセリフの助詞が違ったりするんだけど、そのアンマッチに気付いたときに十三代目が「どないやったかなあ…」というところは、今通っている三味線教室でも見られるシーンなので、ちょっと面白かった。でも、これは先生の方が正しいに決まっているのだ。にもかかわらず、「俺の方が正しい」と強引に言わない十三代目は、人格者だなあと思った。そういうところも格好いい。

映画が終わってお昼時だったけど、東中野はまったくわからんで、お昼はまだ多少土地勘がある吉祥寺で食べようと思って、総武線で吉祥寺へ。中野で乗り換えなくてはいけないということを忘れていて、少し慌てる。総武線は未だに慣れない。吉祥寺も久しぶりすぎて、多少戸惑ったが、無事北口に出てまあなんとかなりそう。

お昼は、吉祥寺コスモにある香港料理屋さん(香港食通街)の海老ワンタン麺と悩んで、結局、くぐつ草のカレーにした。今日みたいに空いている日に行けるとは限らないから、行けるときに行っておこうと。うーんと久しぶりだったけど、昼だからかな、昔よりも店内が明るくなったような気がした。店内も結構やかましくて、なんだかそれも意外。

カレーセット2,200円って、正直ちょっとびっくりしたが、食べるといい材料で丁寧に作ってあって、妥当かなとは思う(量も結構ある。ニューキャッスルみたいに量を刻んでくれるとすごく嬉しいんだけど…)。ビーフカレーなんだけど、脂は極力省いていて、3切れほどあったお肉の塊がものすごく柔らかくて驚いた。甘みが少なくて、カレー粉の渋みと辛みが強く出た、むかしむかしの日本の喫茶店カレーの味そのものだなと思った。なんていうか、食べている最中にすごくおいしいなと思うことはないんだけど、食べ終わると、なんかいい感じ…と思う感じのおいしさ。時々、あ、食べたいな…と思うタイプのおいしいだと思う。

食後のコーヒーはマイルドで。これでマイルドだったら、ストロングってどないやねん…と思いつつ、とてもおいしい。ネルドリップのすっきり感も、古い喫茶店ならではって感じ。

このあと、腹ごしらえもかねて、ずっと行ってみたかったMelrose and Morganまで歩いて、色々買い物した。それにしても、風も結構強くて冷たくて、今日は本当に寒かった。帰る段になってようやく雨が上がってきたのが、なんともうらめしい。

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